AACR: 親から受け継いだかもしれない(遺伝性)癌のリスクを子供に伝えますか
親から受け継いだかもしれない(遺伝性)癌のリスクを子供に伝えますか
Telling Your Children About Inheritable Cancer Risk
2019年12月27日
著者:マルシ・A・ランズマン
癌のリスクを高める遺伝子突然変異を持っているかもしれない、と我が子に伝えることは簡単なことではありません。専門家はそれを知らせるのにひとつだけの決まったやり方はないと言います。
2009年エイミー・シャンマンさんが乳がん、卵巣がんの要因とされるBRCA1の遺伝子突然変異があると診断されたとき、子供たちは娘が8歳、息子は5歳でした。その後彼女は乳がん、卵巣がんを予防するため卵巣摘出術、両乳房切除手術を受け、そして乳房の再建をしました。そのとき子供には病院へちょっとチェックに行ってくるわ、というごく一般的な言い方をしたと話しています。
しかし彼女にはいつか子供たちとこの話題に向き合わねばならない日がくると分かっていました。
Photo courtesy of iStock / Getty Images Plus / Daisy-Daisy
親から受け継いだかもしれない(遺伝性)癌のリスクを子供に伝えますか
Telling Your Children About Inheritable Cancer Risk
2019年12月27日
著者:マルシ・A・ランズマン
癌のリスクを高める遺伝子突然変異を持っているかもしれない、と我が子に伝えることは簡単なことではありません。専門家はそれを知らせるのにひとつだけの決まったやり方はないと言います。
2009年エイミー・シャンマンさんが乳がん、卵巣がんの要因とされるBRCA1の遺伝子突然変異があると診断されたとき、子供たちは娘が8歳、息子は5歳でした。その後彼女は乳がん、卵巣がんを予防するため卵巣摘出術、両乳房切除手術を受け、そして乳房の再建をしました。そのとき子供には病院へちょっとチェックに行ってくるわ、というごく一般的な言い方をしたと話しています。
しかし彼女にはいつか子供たちとこの話題に向き合わねばならない日がくると分かっていました。
女優アンジェリーナ・ジョリーが2013年にがん抑制遺伝子BRCA1に変異が見つかり、両乳房切除に続き、卵巣、両卵管摘出手術を受けたことをきっかけにこの会話を子供たちと始めました。
New York Times記事原文
https://www.nytimes.com/2015/03/24/opinion/angelina-jolie-pitt-diary-of-a-surgery.html
その時のことを彼女は自伝“Resurrection Lily: The BRCA Gene, Hereditary Cancer & Lifesaving Whispers from the Grandmother I Never Knew”の中で振り返っています。
乳がんや卵巣がんを予防するため摘出手術を受けたこと。そしてそれをして前向きであることなどをアンジェリーナ・ジョリーの話も交えながら、子供が理解しやすいように話しました。娘には再建した乳房を見せたほどです。
BRCA遺伝子の病的変異は、性別を問わず親から子へ2分の1(50%)の確率で受け継がれることが知られています。
当人ですらそれと分かったときショックなのに、遺伝子変異を生まれながらに受け継いでいるかもしれないと、どうやって知らせたらよいのだろうか。ましてやがん検診などを受けるに適さないまだ小さな子供を持つ親には非常に難しい問題でしょう。
シャンマンさんの娘は18歳になりました。今、彼女は娘ともう一歩進んだ会話を持とうとしています。「自分自身の身体に注意深くなること。事実を伝えることはひとつだが、自分の子供がどんな性格なのかそのバランスをみることが大切。正解はない」と話します。
また息子にも話すつもりです。
(BRCA遺伝子変異が陽性の男性には、40歳で前立腺がんの検査、35歳から乳がん検査を推奨しています)
「12歳以上であれば話してあげてよいのでは」と、ワシントンDCのジョージタウン大学メディカルセンターで「遺伝子突然変異を持つ親とその子供の対話」を研究しているケニス・ケネス・テルシアック氏は話します。
「我々のデータでは、BRCAの遺伝子変異を受け継ぐ可能性があるかもれしれないと子供たちに話した親のほうが、精神的に安堵しているように思えます。また打ち明けて後悔していないようです。」
しかしテルシヤック氏は「そこにルールはない」と強調します。各家庭、子供たちひとりひとりの性格はさまざまです。伝え方、共有の仕方にもそれぞれの事情、年齢に合ったやり方で子供たちと接するべきとし、そこに正解や不正解はないのだと説いています。
子供にいつ、どのように伝えたらよいかは簡単なことではありません。親御さんへいくつかのガイドラインを紹介したいとおもいます。会話を持つひとつの手助けになればとおもいます。
■リスクを正しく知るということ
癌のリスクを高める遺伝子検査で陽性が出たとき、一番にすることはその人たちに遺伝子変異とは何か、ということを正しく理解してもらうことです。
そして次に、家族にいつ、どのように伝えるか、ということを話し合っていきます。そう話すのはオハイオ州立大学総合癌センターで遺伝子研究のカウンセラーを務めるレイハ・ジェマイソン。
誰もが、自分が癌になりやすい遺伝子変異を持っていると知ったらそれを受け入れるまでに時間が必要です。そして何が必要で今後どのようなことをしていけばよいのか、正しい知識を得ることにより、家族や子供に正しい情報を説明することが出来るのです。専門家の知識は必要ありませんが、子供からの「質問」は必ずつきまといます。そのとき、自分自身にある程度余裕がなければ不安を増長してしまうだけですから。
■その家族に合ったやり方で
それぞれの家族が違います。そのコミュニケーションの取り方も違います。
ユダヤ人のための乳がん患者やその家族をサポートする団体でソーシャルワーカーとして働くフレッシマンさんはこう続けます。
「皆さん選択肢があります。いつ、どのような形で、どれくらい伝えるか。家族にはいい時も、そうでない時もあります。過去の家族の歴史から、子供たちとどう乗り越えてきたか。そうゆうのを思い出しながら、より合ったやり方を決めていくのもよいでしょう。」
■年齢は重要
あなたに遺伝子変異が見つかったとき、子供に何をどこまで伝えるか、その子供の年齢が重要なファクターとなります。なぜならBRCA遺伝子検査は、ある一定の年齢に達するまで薦められておらず(実際に癌リスク低減治療が行える年齢に達するまで)、たとえ遺伝子変異を持っていても癌の発症リスクは20代後半から30代まではほぼないとされているからです。
一般にBRCA変異をもつ患者さんには25歳からMRI、マンモグラフィなどの定期検診を受けるようすすめています。
まだ小さいお子さん、がん検診など具体的な検査を受けるには早すぎるお子さんたちに無理して打明ける必要はないと考えます。
例えば子供たちの結婚や妊娠のタイミングをみて、あなたにがん抑制遺伝子BRCAに変異があることを話すのもいいでしょう。そしてその意味することを正しく理解してもらうことが、彼ら自身にとっても将来重要だということを。
■少しづつ
癌にかかりやすい遺伝子変異を受継いでいるかもしれない、と一度の会話でいきなり話始めることはないとおもいます。定期的にMRI検診をしている姿を子供に見せるなど、あなた自身が常に健康に気を配っていること、病院での定期検診は特別なことではなく、日常の一部なのだという教育をしていくのもいい方法です。
■遺伝学の専門家にアドバイスを求める
遺伝子研究のカウンセラーであるレイハ・ジェマイソン氏は専門家の助言を求めるのもひとつの手だと話します。家族に話すタイミングを探している人たちには、その時期、情報量、内容を含め選択肢が広がるといいます。
癌の要因となりうる遺伝子変異を家族の誰かに認められたとき、家族全員で相談に来てもらうこともウエルカムと話します。お子さん連れも大歓迎です。まだ何も知らない子供は無邪気に色々なことを聞いてきます。構えずその話に入っていけるのはよいことです。
この話題を切り出すことは怖いことです。しかし、遺伝学の専門家はがん検診や予防手術は、癌になりやすい遺伝子変異をもって産まれたかもしれないその家族(子供)に前もってケア出来ることを知らせていることでもあります。それは癌の発症リスクを減らしているということです。
「検査で陽性結果が出た人々にこう話しています。子供が癌にかかりやすい遺伝子を受継いでいるかもしれない、と想像するだけでもやるせないでしょう。でも発想の転換をするべき。あなたのおかげで救える命があるということを」
アシュケナージ系ユダヤ人であるシャンマンさんは、遺伝子突然変異を持つ彼女自身が抱えるその重みと戦いながら、ツイッターを通してBRCA変異の認知度を広める活動をしています。そしてBRCA変異をもつ家族に癌のリスク、正しい理解、選択肢、知識を得ることの大切さを説きながら、今シャンマンさんは子供たちにもし将来陽性結果が出たとしても、前もって対応出来るよう十分な情報、知識を与えてあげることが自分の使命であると考えています。
シャンマンさんは自分の子供たちはBRCA1突然変異をもっているであるだろう、という仮定のもとに対応しています。実際、検査結果で陰性と確認が出るまでは。
「娘は今18歳。今出来ることは定期検診ぐらいです。ただ娘には自分の母親は癌のリスクを高める突然変異を持っているという事実、そして自分もその遺伝子を受継いでいるかもしれないということは自覚してほしい。だから自分の身体に敏感でケアをする習慣を身につけてほしいのです。でもだからといってそれがストレスにはなってほしくない。普通に18歳という年齢を楽しんでほしい。今は他に出来ることはないのだから」と話します。
現在50歳であるシャンマンさんはこれからも“BRCA遺伝子変異と共に生きる家族”に焦点をあて続けていきたいと考えています。祖母は33歳のとき癌で亡くなっています。その当時はまだこのことが解明されていませんでしたし、どうしてその若さで癌に侵されたのか分かっていませんでした。しかし時代は変わりました。「私はBRCA突然変異をもっている。そして元気に生きている」「医学は日々進歩し、研究も進んでいる」「子供たちにも希望がある」と。
記事ここまで。
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米国パンキャン本部の代表ジュリーフレッシュマン氏もNPO法人パンキャンジャパンの眞島喜幸氏も共に、米国癌学会AACR Cancer TODAYの編集諮問委員です。この記事は、編集諮問委員の提案により執筆されました。
CancerToday Practical Knowledge. Real Hope.
from the American Association for Cancer Research